実家の犬が踊る

狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり

映画「イップ・マン 継承」をもう一回観た。

 前回、上映終了だと思って慌てて観に行ったイップマン。 

ippaihaten.hatenablog.com

  最初は新宿と梅田でしか上映されていなかったんで、この機を逃してなるものかと思って行ったんですが、そこの2館で上映が終わったら、今度は全国各地で上映され始めて、近所の映画館でも上映されていたのでまた観に行ってしまった。

 感想は既に書いているけど、やはりドニーイェンは最高だし、イップマンは最高。

 今回改めて気付いた点をひとつ。

 挑戦状を叩きつけられた試合の開始時刻、つまり奥さんが倒れた時間がちょうど3時で、その後に家族で写真を撮るシーンでもイップマンの背後の時計は3時を示していて、その間に過ごした時間はイップマンの中で時間が止まったままという演出なのかと思い、色々と想像を膨らませる演出で感心した。その後の奥さんとの会話と木人椿のシーンがイップマンにとっての3時1分であったに違いない。そう思った。

 

  

 

 

 

 

 

宇宙最強で宇宙一最高な映画。映画「イップ・マン 継承」を観た。

  上映期間も残りわずかだったのと、今日を逃したらスクリーンで観る機会がないという気付きを得たので、出張&飲み会帰りに新宿武蔵野館へ寄って観に行ってきた。終電逃しそうになったけど観に行って本当に良かった。我が人生に一片の悔いなし。

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 感想は最高!最高!最高!とにかく観るんだ! としか言えないけど、何が最高かを備忘録代わりに書いてみる。

 

1・人間としてのイップマンを描く

 ある意味では、シリーズ3作目に相応しいであろう今作のテーマ。作中で奥さんのガンが発覚して、そこから今までのイップマンとは違うイップマンが描かれるんですが、本当に最高。前2作のイップマンは立場は違えど武術家・イップマンなんですが、今作は妻を思いやる一人の漢、一人の人間としてのイップマンなんですよ。ドニー・イェンのそういう情緒的な演技はほとんど見たことないし、苦手分野っぽいなとか勝手に思っていたんですが、そこはさすがのドニー・イェン! 細かい動作で、背中で、全身で、アクション俳優として武術家としての演技をしていて、すごく良かった。ホントね、妻のガンが告知された直後の家族の食卓のシーンで、ご飯をおかわりするというだけでも、目線や動作だけで奥さんと残りの時間を精一杯生きていこうというのが伝わってくるんですよ。

  他にも妻とダンスに興じるイップマンのシーンもあって、一方で進む別のシーンに出てくる人々の表情と対比するかのように楽しそうに妻に笑いかけるイップマン。妻以外の全てを置いてきた、世俗を忘れた笑顔はどこか尊い。エレベーターでの戦闘も妻に戦う姿を極力見せずに、相手を制しながら、地階で何事もなかったかのように妻を迎える姿には優しさしかない。

 そして何よりも、終盤のとあるシーン。同じシーンは冒頭でも出てくるんですが、終盤でもう一度出てきて、その対比というか込められている感情の絶対量が圧倒的に違うんですね。いつものドニー・イェンが演じるイップマンのアクションなのに、口は黙しながらもその迷いのない背中にすべての感情が凝縮されていて、観客に『伝わる』んですよ。まさに鳥肌と号泣もの。これはとても凄い演出だと思うし、ドニー・イェンにしかできない演技なんじゃないかと思わせてくれて、超最高。

 あと最終決戦の時、妻には闘う姿を見せないように外に座らせる演出がまたニクい。こんなことされたらさあ、前2作のイップマンも最強だったけど、今作のイップマンは絶対に負けられない漢へとさらなる高みに至ってしまうじゃないですか。だから、これは最強のイップマンが、最強不敗のイップマンに成る映画とも言える。

 

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2・詠春拳の光と陰

 今回の映画のアクション面の見所のひとつとしてシリーズ初の同門対決、つまり詠春拳VS詠春拳という構図があるんですが、前2作での空手・ボクシングと異種格闘戦を経ての待望の対決となっていて熱い。これまでのシリーズを観ていると、色々な文脈がドライブしてくるので、より楽しめるのではないかなと思う。今までは詠春拳=イップマンだったけど、他に詠春拳の使い手が出てくることで本当に強いのは詠春拳という武術なのか、それともイップマン個人が強いのかというテーマにも繋がってくる。

 イップマンと対峙する詠春拳の達人・張を演じるのはマックス・チャン。最近だと「グランドマスター」や「ドラゴンマッハ(SPL2)」に出ているアクション俳優。 息子を唯一の弟子として普段は車夫の仕事をし、夜は鍛錬も兼ねて賭け試合で連戦連勝し稼ぐ日々。それも全ては自分の武館(道場)を持ち、己の強さを世に知らしめるという野望のため。

 そしてこの張はイップマンとことごとく対照的な存在として描かれている。武術界でも世間でも一定の社会的地位を得ているイップマンと、無名の武術家で貧しい車夫である張。序盤でイップマンの家を訪ねるシーンで、家の中を見た時にハッと息を飲んで、カメラがしばらく張の視線として動いていくんですが、何だか印象に残っている。他にも色々あるが、同じ場所で人助けしていても張はその風貌と無名のせいで捕まるし、片やイップマンは地元のヒーローとして新聞に取り上げられたり。観ていると張に感情移入したくなってくるくらい報われないんですよ、本当に。

 その感情移入させる要因の正体は、世間の理不尽に追われ、また武術界という権力(の腐敗)に不満を抱いているという点で、かつてのイップマンの姿そのものだからだ。前2作で日本軍に追われ全財産を奪われ、強さや理念ではなく金と権力に固執する武術家に憤りを示していたイップマンが立っていた境遇に他ならない。そういった意味でも張は「何もかも奪われ妻も理念も失い、息子と強さのみが残ったイップマン」という鏡写しのような、「そうはならなかった」もう一人のイップマンとして、作中で徐々に存在感を帯びていき、最終的にはイップマンと対峙するという展開はベタだけど、ベタだから熱い!

 もちろんアクション面でも両者の差別化の工夫があって、スピード・技巧タイプがイップマンなら、張はパワータイプという描き分けが明確で、パンチの音や戦い方で上手く表現している。

 詳しくは書かないけど、ラストバトルも高密度かつ息も吐かせぬ怒涛のアクションで、勝負を決した一連のやり取りは本当に良かった。張があの攻撃をしたことで、それまで互いに拮抗していたものが崩れ、その上でイップマンのアレですよ。ここでまさかの! とめちゃくちゃ興奮した。勝負が決した後のやり取りも良かったし、「心じゃよッ!」という台詞が自然と浮かんできた(笑) ただ一つ言えることは、詠春拳は超最高!

 

  

 

3・マイク・タイソン

 その他として、カオス過ぎるアニメ化(下記リンク参照)もされたマイク・タイソンも出てきてイップマンと闘うのも見所のひとつ。ボクシングVS詠春拳というツイスター戦とはまた違った異種格闘技戦を描いていて良かったし、タイソンの一撃がしっかり重そうで緊迫感のある戦いだった。一瞬、猪木VSアリのような構図になったり、対ボクシングと言うと「喧嘩稼業」における十兵衛のリードストレートVSボクサー石橋のジャブを連想して、2度ニヤリ。マイク・タイソン戦は正直言えばいきなりブッ込んできた感は拭えないけど、まあアクションは良かったので無問題。

MIKE TYSON MYSTERIES: SEASON 1

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  まあ色々書いたけど、観るべし! という結論しかない最高の映画でした。ブルーレイは絶対に買うと決めたので、発売が楽しみ。あと観に行った新宿武蔵野館ですが、スタッフが自作した木人椿が展示していて、映画を観る前と観た後で気分を高めてくれたので、そこも良かった。