実家の犬が踊る

狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり

準ボンクラ映画。映画「スイス・アーミー・マン」を観た。(後半ネタバレあり)

 タイトルの意味は、日本で言う十徳ナイフを英語ではスイスアーミーナイフと言うみたいで、それをもじってスイスアーミーマン(死体)。この世に絶望して自殺寸前の青年と色々な機能を持った死体が活躍する映画。 

スイス・アーミー・マン(字幕版)

 まずパッケージのインパクトが抜群。右の死体役がダニエル・ラドクリフ。「ハリーポッター」のハリー役から、すげえ役やることになったなという感想しかない。

 感想。展開は予想外だったけど、ヘンテコで良い話な準ボンクラ映画だった。キャッチ―なパッケージとあらすじからはコメディだと思ったんだけど、ボンクラ青春モノ寄りな映画だったので、人によって評価は分かれそうだけど、自分としてはアリだった。

 ダニエル・ラドクリフ(死体)に備わっている謎の便利機能は面白かったし、自殺寸前の青年と記憶喪失の死体の交流から、徐々に希望を見出していく過程とかも良かった。中盤くらいで死体に希望を語るシーンで、バスの中でいつも出会う片思いの相手のエピソードの情景がとても綺麗で印象深い。

 あまり細かいこと書くとネタバレになるからここでは書かないが、独特な空気の世界観と死体に備わった数々の便利機能で話が基本的に進んでいくんだけど、序盤早々に思っていたのとは違う方向に話が進んでいって、おやおやこれはどういうこと? とか思っているうちに終盤近辺で不穏な雰囲気を感じつつ最終的にはエーッ!?みたいな感じで終わりつつも、頭から最後まで独特の空気で少しボンクラで不思議な映画だった。

 

スイス・アーミー・マン DVD

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 ネタバレは以下「続きを読む」から。

 

 

 まず予想外だったのは、死体役のダニエル・ラドクリフが割と序盤から喋り始めたこと。物言わぬ死体のまま話が進むと思っていたら、主人公の精神(生きる希望?)と呼応するように、死体がどんどん動き始めていって驚いた。あと片思いの相手の話とか良い話だなーと思っていたら、まさかの全くの他人で子持ちの人妻というのは予想の斜め上だったww しかも、その人妻の住む家の近くに大量の奇妙なオブジェを作っていて、それを発見されてドン引きされる中「みんなに見てもらいたかった」という主人公の台詞、主人公(と視聴者)以外の視点からは完全にサイコパスで面白かった。

 途中までダニエル・ラドクリフは主人公の幻覚とか夢の可能性もあるなと思っていたんですが、最後の最後まで実在するモノとして存在していて(主人公以外の人も認知しているように見える)、そのとぼけた世界観が、主人公を完全に異常者扱いしていなくて逆に良かったのかも。

 まあでも、よく考えると主人公の精神世界の話の話としても読めるんだよなあ。絶望した主人公が彷徨い続けた海と森って、終盤ではサクッと移動できているように見えるし。主人公が人家や人に辿り着かないのは、生きる希望も何もない状態だから無限に距離があって、社会と隔絶されている風にも思える。だから、ダニエル・ラドクリフも手先の器用な主人公の作ったオブジェの人形で、そこに主人公の生きる希望が仮託されていたという風にも読める。

 そう考えると、ラストで死体が海の彼方へ行ってしまうのも唐突ではなくて、主人公がどういう形であれ、社会の中で生きていくことを選んだ結果、死体も役目を終えたというような感じなのだろうか。

 どっちでも取れるような作りなので、やたら便利なゾンビとの珍道中青春映画として観てるだけで十分だと思うけど(笑)