静かで雄弁な映画。映画「サーミの血」を観た。
サーミ族というスウェーデン北部の先住民族である一人の女の子を主人公にした映画。主要キャストに実際のサーミ族を起用していて、監督もサーミの血を引いているらしい。
予告編はコチラ。
この映画の時代背景は1930年代で、まだサーミ族に差別と偏見があった時代の話。そんな中でサーミ族の一人の女の子が、進学して教師への夢を叶えようとするというストーリーなんだけど、屈辱的な差別があり、進学の希望を出しても「サーミ族の脳は文明に適応できない」と言われて難色を示されたり、サーミ族の伝統的な生活に従う妹や家族からは変な目で見られたり、静かに波乱万丈な感じの映画だった。
この主人公の女の子が、今のつまらない生活や周囲の悪口にウンザリって感情が表情と演技で上手く表現されているし、好奇心の塊でチャンスを逃さない図太い神経の持ち主っていう性格なんかも語らずとも伝えるのがとても上手い。あと、サーミ族のずんぐりむっくりな体型も、ダンスの授業で他の生徒との対比で明確に出ていたり、間接的に表現するのがとても上手い映画で、同時にとても静かな印象の映画だった。
灰色の空が続く荒涼とした自然風景とかサーミの伝統衣装も華美ではないけど目を引くデザインで、そういった部分も見所のひとつ。
余談だけど、女の子と静寂で、なんとなく連想したのは映画「草原の実験」。
これは本当に余談だけど、映画の作中でタイトルが出てきた時に「SAME BLOOD(SAMI BLOOD)」と出てきて、「同じ人間なんだよ」というメッセージかと思って少しドキリとしたけど、特にそういうことはなかった(笑)
映画「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない」を観た(後半は原作既読者にはネタバレ)。
漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の第4部「ダイヤモンドは砕けない」を実写映画化。第4部映像化はジョジョの話をすれば一度は出てくる話題であり、アニメ化したりのジョジョ人気からもいつかやるとは思ってた作品がついに実写化。
感想。この映画単体としては思っていたよりもずっと良かった。けれども、ジョジョという原作に対してどうポジションを取るかについては、期待と想定は超えなかった印象。ちなみに原作既読で、一番好きなのは第6部と第5部です。
この映画の良くなかった所は色々な方面に気(リソース)を使い過ぎて、映画自体の良さが目立たなくなってしまっている所。その色々な方面って何よと言うと、「第四部ファン」「原作ファン」「映画の続編を期待している身内(スタッフとスポンサー)」辺りだと勝手に思っている。
ジョジョの人気は確かにあって、先に第4部がアニメ化してたり、今は第5部のアニメが放送してるけど、どこまでの人気と知名度を前提にするかで、話がだいぶ変わってくる。それはこの映画を、曖昧としたスタンドの概念や原作を既知の人達に向けて作ったのか、ジョジョ未見の人でもその世界観を楽しめるように作ったのか、あるいはその両方に向けて作ったのか、よく分からなくなっているとは感じた。実際は、両方に向けて作った&続編制作を想定して脚本化した結果だと思うけど、その中途半端さが悪い方向に出た。
個人的には劇場版としてのまとめ方はシンプルで好感なんですよ。尺的にも導入的にもアンジェロと虹村兄弟は外せないし、この映画はそこまでだと潔い割り切り方で。この構成なら、ジョジョ初見の人にも「悪人がいて、何らかの目的を持った黒幕がいる」とシンプルで分かりやすいと思った。欲を言えばレッドホットチリペッパーも観たかったけれど、話が確実にややこしくなるだろうし、まあ仕方がない。キャストは各キャラの個性が出ていて良い、本編だとあまり目立たないけど地味に良いキャストだと思う。スタンドとアクションも見所はあったし。
スタンド自体に関しては、主人公のスタンド「クレイジーD」が能力的に万能で複雑な反面、あまり目立たなかったりするのは(そこが良さでもあるとは思うが)、まあ仕方がない。康一の「エコーズ」も能力が複雑だしACT3までショートカットするんだろうな・・・というのも仕方ない。全体的にスタンド能力の説明が割と投げっぱになっているのもまあ・・・と省略するのは分かるけど、ファンも初見の人も誰も得をしない省略な気がするのは良くない。
あと気になったのは、自分が第4部の妙味だと思っている「日常と非日常の同居感」をどう料理したかって所なんだけど、そっちの方向には行かなかったという印象。エンドロールでは続編の存在も匂わせているんだけど、本作の配置から推察するに、レッドホットチリペッパーは出てこないし、ラブデラックスも出てこない。露伴と重ちーは出てくるけど、パイツァダストは出てこない、そんな感じだと思う。原作やファンに気を使った構成でジョジョファンとしては最適解だとは思うけど、 中途半端な優等生っぷりで新しさがあまりなかったのは残念だった。
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実質、猫が主人公の猫映画。映画「空海-KU-KAI-美しき王妃の謎」を観た。
夢枕獏先生の小説が原作。恥ずかしながら原作は未読。十中八九で陰陽師っぽいなーとか思いつつ、なんとなく手が伸びなかったんですが、映画化を機会に観ることに。
感想。なんとなくの予想通り、中国版「陰陽師」という感じの話だった。ストーリーは少し分かりにくいけど、話のスケールの広げ方と繋ぎ方が完全に夢枕獏イズム全開で安定してる。その広げたスケールに沿ったセットと特殊効果の作り方がひたすら豪華で眼福。CGっぽさは所々で感じるけど、とにかくスケールを大きくしているんで、あまり気にならなくなってくる。詳しくは分からないけど、カメラワークも色々な撮り方をグリグリやっている気がする。
話の筋はシンプルなんで、観ていて気分の良くなる美術や衣装の壮大さと煌びやかさを楽しんで欲しい、と言いたい所だけど、割と作中の説明と時系列がダイナミックに動くので分かりにくさがある。まあ、元々の原作が大風呂敷を広げて歴史上で接点のなさそうな点と点を繋げる作風なので、楊貴妃と阿倍仲麻呂辺りの人物と歴史については軽く予習しておくとより楽しめるとは思う。
あとは、阿倍仲麻呂を演じる阿部寛が完全に中国における異人顔というかテルマエ感が半端なかった。あと詳しくはネタバレになるから書けないけど、終盤のミラーリング猫転生もなかなか斬新だった。この映画で全編通して、表情と感情が豊かだったのが猫だったので、実質、猫映画と言っても過言ではないかなと思った。
こちらは原作小説とコミカライズ版。
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あのマッコールさんが君の街にいるなら。映画「イコライザー2」を観た。
前日に予習・復習(前作「イコライザー」) を済ませた上で公開日に観に行った自分には一分の隙もなかった。上映時間の関係で4DXで観たけど展開の関係で水しぶき多めだった。タイトルは伊集院光のカブトムシの秘密より。
基本的なストーリーは前作と同様で、とある街で様々な理由で行き詰まった人達を人知れず助けていく主人公のマッコールさん(デンゼル・ワシントン)が、街に潜む巨悪をイコライズしていく展開。
前作では中盤くらいからイコライザーとして覚醒した主人公が、今回はオープニングからフルスロットルでイコライズしていて様式美すら感じるし、徐々に悪人を人知れず始末していく概念と化している感じがして面白い。「マッドマックス」のマックスがシリーズを重ねるごとに、世紀末にどこからともなく現れて民を救う概念と化したように、イコライザーも最終的に都市伝説みたいな存在になったらなったで面白い。
前作はイコライザーとは・・・? からのイコライザーTUEEE!!ということを楽しむ映画だったけど、今回はイコライザーとしての生き様と過去の清算の話っぽくもあり、ドラマ部分に力を入れている印象。ポスターとかで、今度の敵はイコライザーみたいな煽りだけど、あくまで過去の戦友と違えた道を清算する話であって、イコライザーではないよなあとは思った。
前作では歌手を夢見る女の子がヒロインだったけど、今回は美大に通う黒人青年マイルズがヒロインで、主人公とのやり取りと関係性もただ二人で会話しているだけなのにどこか印象に残る。マイルズに対しては、本当に良き父という感じで言葉を紡いでいるのが最高に良かった。監督も主演もアフリカ系アメリカ人なので、その辺りのメッセージ性にも希望と力強さを感じて好感が持てる。
アクション面では前作の方が好みだったけど、終盤の突風は「???」ってなったし、マイルズを狙っていたのに突然狙わなくなったりするのは正直分かりにくかったけど、全体的にアントワーン・フークア監督も主演のデンゼル・ワシントンも初めての続編ということで、気合入っているのを感じる。あと、ラストの100冊目が「失われた時を求めて」なのは、作中の感情ともリンクしていてとても良いし、ラストの余韻も素晴らしい。
オープニングのアクションや前作の設定(妻と100冊の本)を踏まえた展開もあったり、前作ファンへの目くばせもしつつ、別作品としても成立させているので前作を観てなくても楽しめるようになっていると思う。 前作のインパクトが強過ぎて、そういう方向ではちょっと物足りなさを感じるが、全体的に軽快で相変わらずカッコ良いデンゼル・ワシントンだし、映画の出来としても最高。
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【作中で登場した本のタイトル】
前作もそうだったけど、この映画に出てくる本のタイトルがどれもメッセージ性を感じたのでまとめてみた。
「世界と僕のあいだに」はオープニングで変装したマッコールさんが読んでいた本。寡聞にして知らなかったけど、現代アメリカでの黒人問題を扱った内容で2015年に出版されてその年のベストセラーになっていて、日本だと2017年に翻訳出版されているみたい。
「失われた時を求めて」はタイトルもその長さも有名な作品。マッコールさんの奥さんの100冊リストの最後の作品。この作品名は割と他の映画内で目にしている気がする。「恋空」でも作中に出てきてた。今年は「大菩薩峠」に挑戦しているんで、来年の挑戦作候補に入れておこうかな。
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「アメリカの息子」はハヤカワ文庫NVで昔出版されていたけど、絶版っぽいので原著の方を紹介。リチャード・ライトという人は黒人文学の先駆けとなった作家みたいで、映画の内容とリンクしているし、メッセージ性が高そう。
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【おまけ】
今作ではあまり出なかったけど、前作「イコライザー」を観ていたら、絶対に欲しくなるアイテム。誰かクリスマスプレゼントとして、自分に贈ってくれても良いんですよ?