コメディ版ブレイキングバッド。映画「いつだってやめられる 7人の危ない教授たち」を観た。
去年、単館上映していて気になっていたのをようやく観れた。イタリア版「ブレイキングバッド」な映画。
面白かった! 研究職を追われたワープアな教授たちが「合法的な」ドラッグを作って荒稼ぎしようとする・・・というのが基本のあらすじなんですが、基本的にはコメディ映画で楽しく観れるんですが、その中にも社会風刺が感じられてとても良かった。自分が超好きな「ブレイキングバッド」が一人の人間の人生とコンプレックスに焦点を当てたドラマならば、この映画は今の社会の制度・システムに焦点を当てたコメディ。
少し話は変わるんですが、大学批判の決まり文句のひとつに「社会に役立つことをやれ」というのがあるじゃないですか。象牙の塔に籠って、自分しか分からない研究を止めろ、平たく言えば金を稼げ、あるいは税金で研究しているんだから社会に還元しろ、みたいな感じの。
それに対して「おうおう、分かりやすく社会に還元したろうやないかい(※ただし方法や手段や善悪は問わない)」という、あらゆる学問を実用的に応用するとこうなるぜという思考反論は、この映画のテーマのひとつでもあると同時に、教授たちが訳の分からない小競り合いをしたり、話がしょーもない質問でグダグダになったり、やっぱりボンクラな教授も悪いなこれは、という批判性もあって、その辺りの匙加減もコメディとしてとても上手く感じた。作中で主人公の研究が主人公本人しか意味と意義が分からない、という描かれ方をされていたりとか。
あと、職を追われた教授たちの専攻が神経科学、ラテン語(古典)、マクロ経済、考古学、文化人類学・・・というラインナップなんですが、深い意味があるのかまでは分からない(笑) 主人公たちを目の敵にするマフィアのボスとの終盤のやり取りも結構好き。この映画は実は3部作モノなので、続きを早く観たい。
2019年2月に観た映画
2月(13作)
- 「SPL 狼たちの処刑台」
- 「モリのいる場所」
- 「殺人者の記憶法 新しい記憶」
- 「銀魂2 掟は破るためにこそある」
- 「ローライフ」
- 「モリーズゲーム」
- 「黒崎くんの言いなりになんてならない」
- 「いつだってやめられる 7人の危ない教授たち」
- 「マンハント」
- 「ダンガル きっと、つよくなる」
- 「いつだってやめられる2 10人の怒れる教授」
- 「いつだってやめられる3 闘う名誉教授たち」
- 「恋は雨上がりのように」
サスペンスからの超展開。映画「マンハント」を観た。
ジョン・ウー監督作品。福山雅治がW主演しているので邦画に見えるけど香港映画。元々は高倉健主演の邦画「君よ憤怒の河を渉れ」をリメイクした作品らしい。
二丁拳銃。白い鳩。さりげなく挿入された「For a Better Tomorrow」という台詞。間違いなくジョン・ウーの映画だった。
ストーリーとしては全体的に大雑把な感じで、メインの舞台は日本(大阪)なんだけど、大阪を舞台にしたほぼ香港映画。二人組の女殺手(冒頭のアクションは超絶カッコいい)、逃走する弁護士(主人公)、それを追う警察(もう一人の主人公である福山雅治)、あと黒幕とか色々な人物と組織が入り乱れているけど、そこまで混乱なく収束させている手腕(力業)はお見事。4つくらいの勢力が、いつの間にか主人公サイドVS敵サイドのシンプルな構図になっているから安心していいと思う。
アクションパートはしっかりしているし、福山雅治も日本刀を振り回してアクションしてるのでシンプルに楽しめる映画だと思う。吹き替えの音ズレ(口の動きと合っていない)が少し気になるのはあったけど、邦画っぽいけど実質は香港映画なので、その辺りもまあ仕方がない。
この映画の見所というか面白くなってくるのは、それまでのサスペンスの皮を捨て、いきなり斜め上の展開をブッ込んでくる終盤から。そして、この映画を最高に面白くしている要素の一つに脇役のホームレスの存在がある。そう、序盤で西成みたいなスラム街に逃げ込んだ主人公を匿ってくれるホームレスのリーダーである坂口さんである。
色々あってとある研究施設に、バイト応募したホームレスとして潜入することになって、そこに何故か坂口さんも一緒にいて「久々にみんな(ホームレス仲間)に会えるぞー」みたいな呑気なことを言っているんですが、次の瞬間「実験用のホームレスが到着!」という分かりやすい台詞で即否定されたり(笑) 人体実験によって一瞬で殺戮マシーンにされ檻に戻ると同時に仲間のホームレスをやけに本格的なアクション(脇固めとか使う)で倒しまくったり。そして唐突に坂口さんの謎の回想シーンが流れたりして、呆然としながら爆笑。この坂口さん役の人、倉田保昭という有名なアクション俳優らしくて、動きのキレにも納得なんだけど、アクションがキレ過ぎていて、完全にホームレスの動きじゃなくなっていて、人体実験を一瞬されただけでホームレスがこんな超人みたいな動きをするのかみたいな感じになるのは面白い。
この坂口さんのシーンからがこの映画の真骨頂とも言えて、序盤から中盤にかけての冤罪疑惑とか犯人探しとか逃走はお遊びに過ぎないことが判明する。実は人間の肉体と精神をモリモリにするヤバい薬を巡る話ということが、終盤で唐突に明らかになる。 というか、主人公が逃げ回る原因となった冤罪事件の犯人は途中の何気ない会話であっさり分かる。下手すると序盤で分かるんだけど、終盤でもう一度「そうです私が犯人です!」みたいなシーンを挟むから、何を伝えたいのかよく分からない回想と顔芸でまた爆笑。最終的に犯人もヤバい薬を使ってモリモリ超人になってバトルが始まるんだけど、その流れからラストの展開は雑なんだけど、意表を突いていて本当に面白かった。
こちらが元ネタの映画。
泥の底で一瞬だけ輝いた正義。映画「ローライフ」を観た。
自分のツボに大ヒットした映画だった。宣伝でも触れているように、まさにメキシコ版「パルプフィクション」というテイスト。短編を繋ぎ合わせたようなスタイル/低予算と脚本(構成)の妙/荒削りの中に光っているシーンも多々ありの、チープさも含めたザ・映画でとても好き。 タイトルの「LOW LIFE」はスラングで「底辺の人間」くらいのニュアンス。
とにかく面白かった! 全体として4章構成となっていて、「怪物(モンストロ)」「悪魔」「ならず者」「無法者」の各章で主役が変化していく。メイキング見てたら脚本家も複数いて、それぞれの章を担当しているというリレー方式のようで、それが人間の感情の機微の揺れに上手く繋がっているように感じて、なるほどなあと納得する部分もあった。
この映画に出てくるどの人物も、クズで底辺の人生と一言で言い捨てるのは簡単なんだけど、それぞれにコンプレックスやら環境やら本人にとっての理由があり、どこか情けなくて馬鹿馬鹿しくて、人間の人生を感じてしまう。
主要な登場人物は
・偉大なる父を持ちながら、売春組織の一員である現状に何もできないコンプレックスを抱えた覆面レスラー。
・覆面レスラーの妻で妊婦でヤク中のケイリー。
・元アル中で今はモーテルを夫婦で経営しているが、旦那がガンで移植に必要な臓器を闇ルートで手に入れようとするがとんでもない事態になっていき苦悩するクリスタル。
・クズの友人の身代わりにムショに入り、その間に彼女を寝取られて服役中に鉤十字の顔面刺青が入ったランディ。クズの友人キースは絶賛トラブルに巻き込まれ中。
とプロフィールだけでお腹いっぱいになりそうなローライフな面々。
そんな登場人物それぞれが、この映画の中で見せた――噴き出したと言った方が正確かも――「正義」が、観ていて胸を打った。その瞬間、その本人だけにとっては紛れもない正しき行為という意味での「正義」。
OPの密売臓器のシーンはドン引くけど、全体的に脱力一歩手前の空気で面白い傑作なので、かなりオススメ。
ここからはちょっとだけ終盤の内容に言及するけど、
終盤に「レガシー」と吼えて子供を抱えて逃げ出した覆面レスラーが見せた「正義」はコンプレックスの爆発と昇華を感じてとても良かったし、我が子にではなくランディに託したという流れと、それを引き継いだランディの行動もスゲー最高に良かった、本当に。ランディ! イェェェェェ! 良かったな、顔面刺青の件も解決だ! って感じで(笑)