自分にとってのオールタイムベストの漫画とは何か、と言うとかなり迷うのだけど、その候補作の一つに確実に入るのは水木しげる「悪魔くん千年王国(全)」だろうと思う。
初めて読んだのは確か小学校の高学年くらいだと思った。その頃の自分は、水木しげるの漫画自体はゲゲゲの鬼太郎くらいしか読んでなかったと思う。あとはアニメの再放送とか、水木しげるの妖怪事典とかをひたすら見ていた覚えがある。
そんな自分にある時、父親がくれたのがこの「悪魔くん千年王国(全)」だった。自分が水木しげる好きというのもあったと思うが、たぶん、自分でも読みたくなって買って読んで、読み終わったからくれたのだと思う。
悪魔くんと言えば、アニメ化した方の、鬼太郎と同じ構成の悪魔退治ものとしての「悪魔くん」のイメージが強い人の方が多いかもしれない。当時の自分はそのアニメが見れなかった(OPだけは見れたのだけど)ので、自分にとって「悪魔くん」と言ったら千年王国の方なのだ。ここではあまり深く触れないが、ファミコン版「悪魔くん」はよく知っていたが、それはまた別の話である。
この「悪魔くん千年王国」でまず名シーンとして挙げられるのは「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム われは求め訴えたり」と魔法陣を描くシーンであろう。彼らは何をしているのか。なんと悪魔を召喚して、契約して、使役するのである。まず、これに衝撃を受けた。それまで触れてきた鬼太郎だとか他の作品では、基本的に仲間というのは友人あるいは改心した敵であるのがほとんどだった。だが、この召喚された悪魔は違うのだ。友人でもないし敵でもない。互いの利害を調整した契約という関係で結ばれているだけなのである。悪魔自身に善悪はなくて、ただ単に力の象徴でしかないのだ。
しかもその悪魔を召喚した目的が、なんと地上に千年王国、理想郷(ユートピア)を作るためだというのだ。千年王国と言うのはキリスト教に出てくる概念なのだが、自分がカトリック系の幼稚園に通っていたせいもあって、何故か背徳的な愉しさがあったのも覚えている。これが描かれた時期からすると、まだ勢いのあった頃のソ連や社会主義国も意識されているのだと思うけど、その悪魔くんの千年王国がどういう結末を迎えることになったかは是非読んで確かめてみてほしい。
またラストのコマも個人的には盛り上がるシーンだった。素晴らしい。面白い。何度も読み続けたせいか、もう、そう刷り込まれてしまっているので、何回読んでもつまらないという感想が出てこない。だから、自分はこの作品の評価なんて実際はできないのかもしれない。
それにしても、家庭教師の佐藤がヤモリ男になるシーンとか怖かったなあ。つい長々と書いてしまいたくなるが、ここらで「悪魔くん千年王国」の中で一番印象に残っている台詞で締めたい。
チキ…リ…… パキリ……すべてはむなしい……。

- 作者: 水木しげる
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1988/06
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