タイトルだけは聞いたことあったが、思っていたよりもボンクラ映画だった。
タイトルの由来は主人公の生まれた地域(ニューヨーク州バッファロー)と年で、アメフトチームのバッファロー・ヒルズが優勝した年でもある。
刑務所から出所したビリーが、八つ当たりみたいな復讐を企て、たまたま出会った女の子を誘拐し、その女の子レイラとの出会いを通して変化していくという話なんだけど、主人公はボンクラだし、自分の好きなボンクラ映画の要件は満たしているように思うんだけど、イマイチ乗れなかった部分はある。
普通に面白いし、人にも勧められる(要素はある)映画だと思うけど、なんか自分が求めていた自己破壊はなかったな、という感想。でもそれはこの映画がつまらないということを意味しないし、先進的な部分や見所はもちろんある。
初対面の人間を攫ってきて、彼女でも婚約者でもなく妻のフリをさせるって、結構ブッ飛んでるんだけど、もちろんビリーの実家での会話はぎこちなくて、気まずい空気しかない。でも、ここのカメラの撮り方はめちゃくちゃ良くて好きだ。四角い机に4人が座っていて、それぞれ誰かの主観視点としてカメラが置かれる(常に3人しか映っていない)という演出。あと、別の小ウィンドウが開いて、過去の映像が流れる演出も面白い。
この記事の冒頭にある画像は、2人が互いに好き合っているような夫婦っぽく撮るんだビリーが提案して、証明写真機(昔のアメリカ版プリクラみたいな感じ?)で撮った写真の一枚。ビリーの無表情さと、「ただ好きで一緒にいる夫婦」のように振る舞うレイラの自然体さの対比。
ホテルで同じ部屋に泊まり、一緒に風呂に入り、同じベッドで寝る2人。だんだんとビリーに心を開いて積極的にビリーと関わろうとするレイラと、頑なに物理的に距離を取ろうとするビリーのボンクラ感の対比とか、印象的なシーンが多い。
あとファミレス(デニーズ)で学生時代に好きだけど声かけられずに、家の前でウロウロしたりしていた女の子とバッタリ再会して、好きだった事がモロバレの上に婚約者と一緒にいてラブラブっぷりをあえて見せつけられるし、その時の会話の内容でレイラにも睨まれるという気まずさ、この時のビリーのいたたまれなさは見ていて本当につらい。
最終的にはビリーの中にも変化が訪れるんだけど、その変化を経てどういった選択をするのかは映画で確かめてほしい。
女の子と出会って、男が変化するという意味で、同じく映画の「タクシードライバー」のトラヴィスを連想した(よりにもよってトラヴィスかよ!)。でもこの映画のビリーは、救われたトラヴィスでもある。 つまり女に追い払われずに受け入れられたトラヴィス。だからラストのアレも納得できるし、自己破壊がないのも当たり前って話ですよ。そもそも必要がないっていう話。だからこの映画はこれで、こういう形のボンクラ映画でいいんだなと思える。
レイラは中二男子の考える願望の塊みたいな存在で、特に何か目的・葛藤やストーリーが内面にあるわけじゃない。なんとなく脅されて、妻のフリをしているうちにビリーに同情・共感をしていく。斜めから見ればストックホルム症候群、でもどちらかといえば母性、今で言うバブみに近いので、実は先見性のある作品と言えるかもしれない(適当)。
この映画を成立させているものって、ボンクラを受け入れて肯定するだけの存在であるレイラと、主人公の精神年齢と社会との距離に大きく開きがある部分だと思う。ビリーの欲求はある意味分かりやすいし、ある意味では幼稚な願望だ。それは多くの人が、受け取るべき時期に飽きるほど受け取っている、という意味での幼稚さで欠落だ。だからビリーの欠落はレイラによって埋めることができたし、精神年齢と社会との距離の開きが小さかったトラヴィスの欠落は誰にも埋められなかった。そんなことを思った。
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