実家の犬が踊る

狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり

等身大のサイコパス。映画「悪の教典」を観た。

 原作は貴志祐介の小説だけど、主演の伊藤英明によるアナザー「悪の教典」と化していて別種の楽しみがあって良かった。ちなみに原作・漫画版既読。

 

悪の教典

 

 感想。まず言っておきたいのは、「悪の教典」という作品とハスミンというサイコパス主人公を楽しみたければ、原作小説か漫画版を読めばいい。だけど、サイコパスを等身大で演じる伊藤英明を見たければ、この映画を観るしかない。

 何故か家では全裸がデフォルトの英語教師ハスミン(主人公)なんですが、それだけでなんとなく別種の人間と伝わる伊藤英明の演技と三池監督の演出がすごい。価値観の温度差というか、伊藤英明の狂気を端的に表現していて面白い。なんとなく「寄生獣」の裸ピアノを思い出した。

 

※裸ピアノについて(過去記事)

ippaihaten.hatenablog.com

 

  基本的には伊藤英明の一挙手一投足がヤバ面白くて、他のキャストも割と豪華なのに全員モブくらいの存在感になってしまっている。まさに伊藤英明=ハスミンの独壇場。そんな中で、全体的に謎のまま登場して、ドラム・刺又(さすまた)・パンツ嗅ぎの3点セットで死ぬ山田孝之も短時間で抜群の存在感を出していたのもgood。あと幻覚と回想で現れるシリアルキラーの外国人もインパクトあるし、おそらく作り手の趣味も入って好き勝手にやっていてexcellent!

 この映画が原作を忠実に再現しているかという観点で言えば、まあ及第点ギリギリなんだけど、原作を超えている部分が多数あって映画「悪の教典」としては成立しているので無問題だと思う。映画で興味持った人は原作(小説or漫画)を読んでほしいし、原作読んでいる人は純粋に伊藤英明のヤバさとハスミン・オルタを楽しんでもらいたい。

 この映画では、原作で描かれている「知性が高く、コミュニケーション能力に秀でている」という側面を持つサイコパス観とは別種のサイコパス表現に成功していると思うし、その表現が伊藤英明じゃないと成立しない迫力がある。英語の棒読み感とか、あからさまな脅迫とか、サイコパスというよりヤバい狂人感がビンビンに伝わってくるし最高。あと、三池監督が感動した伊藤英明どうぶつの森のエピソード(伊藤英明が「どうぶつの森」をゲーム機2台を用意してプレイしていて、一方では平和で健全な村を作り、もう一方では極限まで荒んだ村を作っていた話)とかも合わせると、作中の演技が、伊藤英明の演技なのか素なのか分からなくなってくるのでそれもまた面白い。

  長々と書いているけど、一言で言えば「自分のことをコミュニケーション能力が高く、知能も高いと思い込んでいる」サイコパスなんですよね、伊藤英明の演じているハスミンは。原作でも割と行き当たりばったりなんですが、この映画でも短絡的というレベルで行き当たりばったりなんだけど(笑)、作中のハスミンはそんな風には一切思っていなくて、最善手! くらいのドヤ顔で破綻したプランを淡々と進めていくんですよ。観ているこっちはオイオイオイ! みたいなハラハラ感しかない。そんな風に、伊藤英明(=ハスミン)本人の自己認識とこの映画を観ている観客との認識に大きな齟齬があるから、それが面白さの一番の理由な気がする。

 

悪の教典

悪の教典

 
悪の教典

悪の教典

 

 

【関連作品】 

 原作小説。文庫版は上下巻。新書版なら厚めの一冊

悪の教典(上) (文春文庫)

悪の教典(上) (文春文庫)

 

 

 こちらは漫画版。goodアフタヌーンで連載してて、全9巻で完結。

悪の教典(1) (アフタヌーンコミックス)

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