8月(6作)
- 「シンクロナイズドモンスター」
- 「レッドスパロー」
- 「15時17分パリ行き」
- 「ブラックパンサー」
- 「あゝ荒野 前編」
- 「カメラを止めるな!」
8月(6作)
予告編で気になっていた映画。アン・ハサウェイ主演。
感想。前半から中盤はコメディ調だったんだけど、後半は完全にボンクラ映画で良かった。舞台がアメリカとソウルなんだけど、なんでソウルが舞台に選ばれたのかがよく分からない。分からなすぎて「スポンサーだからだよ!」という理由しか頭に浮かんでこない。制作国はカナダとスペインらしいけど、ソウル市民のとばっちり感が凄い。
この映画の見所はひたすらアン・ハサウェイ。アル中で色々とやらかしたことで家なし・職なし・恋人なしとなったダメ女で脱力感溢れるアン・ハサウェイのゆるっとした魅力を堪能する映画と言っても過言ではない。キャリアウーマン系のアン・ハサウェイもカッコいいけど、ダラダラなアン・ハサウェイも独特の緩さで良いのよこれが、アル中だけど。
この映画のタイトルにもなっているメイン設定だけど、近所の公園の砂場が何故かソウル市と繋がっていて、アン・ハサウェイがその砂場に立ち入ると、モンスターがソウル市に出現するという謎の設定。本当に最後まで何故かは明かされず、そのまま話が進む。細かいことを気にしてはいけないし、このワンアイディアで突き進んでいく姿勢は嫌いじゃない。
なんとなく最初にイメージしていた話と違うぞ・・・でも、まあこれはこれで面白いなあ、とか思っていたら、中盤くらいから話が急展開して、幼馴染のダメンズもアン・ハサウェイと同じ能力を持っていることが判明し、アン・ハサウェイと色々あってブチ切れ始めてソウルを破壊しようとして、それをアン・ハサウェイが止めるというストーリー。ソウル市は大変なことになるんだけど、現実には公園の砂場で取っ組み合いをしてる男女の痴話喧嘩というスケール感が良い。ラストの展開も意表を突いていて面白かったし、最後の最後までゆるっとしたアン・ハサウェイなのもとても良い。
まあモンスターとかソウルの設定とか、何の説明もないんだけど、申し訳程度の回想エピソードを入れることでなんとなく説明した気になってない? 説明になってないからな!? みたいな感じ。あと、幼馴染ダメンズであるジェイソンが最高にボンクラで良いのよ。鬱屈したコンプレックスがあって、いきなり自分に特別な力があるって分かって、突然調子に乗ってイキり始めるまでの流れが、本当にボンクラ感しかなくて分かる。色々とスケール感がおかしいし、話も結構適当なんだけど、感情の濃いボンクラのドラマがあって、なんとなくセカイ系未満・準ボンクラ映画として成立しているし(多分アン・ハサウェイのおかげ)、気楽に観れるという意味でも割とオススメの映画。
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ダーレン・アロノフスキー監督。これはものすごい映画で、個人的には今年のベスト上位に入る映画だった。日本での劇場公開が見送られたという話も納得だけど、とても面白かったのも事実。
この映画観た後、すぐに感想書こうと思っていたんだけど、この映画の内容を思い出そうとすると何だかモヤモヤするなあということを何度か繰り返していて、しばらくしてそれが不快感だ、とようやく気付いた。
そんな風に、自分にとってはエネルギーを使う映画だったんですが、その反面すごく面白くて、色々考察したくなる謎を秘めた映画でもあって、去年観た「哭声(コクソン)」を彷彿とさせる感じ。
この映画の序盤から中盤までは「ファニーゲーム」を彷彿とさせるような、正体不明の人達に家や夫婦関係にまで侵入されていく生身の不快感がちらつきながら、同時に観客に違和感を抱かせるというか、現実と妄想が入り混じるダーレン・アロノフスキー流の不思議なカットを挟みながら話は進むんですが、その生々しく現れてくる不安や幻覚を主人公のジェニファー・ローレンスがシンクロ率120%で演じていて、こっちまで不安な気持ちになってくる(笑) そして、どこか謎めいた旦那が大事にしている結晶を侵入者に割られてから、だんだんと雲行きがおかしくなり、映画の中でも緊張感が増してくるのは本当に助けて! という感じ。
ところが主人公の妊娠が発覚して、事態は一時は平静化して、旦那の執筆(詩人?)が進んで本が出版されるし、良い事ばかりで家の中が幸せなムードに包まれるも、それも束の間。後半は現実と悪夢寄りの空想が入り混じった混沌とした世界観にいきなり叩き込まれて、主人公と一緒に混乱し続けながら悪夢から逃げ続け、そして怒涛&衝撃の展開に・・・。
いや、本当に凄いわこの映画。なんとなく作中で起こる事態が象徴的のようで、そうでないようなラストで、ちょっと教養を求めるタイプの映画で万人受けは確実にしないと思うけど、それでも面白い映画だった。「ノア」の時もそうだったけど、キリスト教というか聖書をさらりと知っておくと、この映画をより一層楽しめると思う。
この映画でも、もちろんダーレン・アロノフスキー流のカメラワークは健在で、総じるとダーレン映画という所はブレていないんだけど、この映画は「レクイエムフォードリーム」であり、「ブラックスワン」であり、「ノア」なんですね。だから、どこか不穏な気持ちにさせてくれるけど目が離せないダーレン映画なんだけど、ふとこの映画と上記の3作は「神がいない」ということがテーマになっているんじゃないか、とそんなことを感じた。神というか救いというか、「ノア」でキリスト教をテーマにし始めたんじゃなくて、元々キリスト教や神をテーマにし続けてきたんじゃないか、とか思ったり・・・この話はまた別にまとめて書きたい。ちなみに「レスラー」は元々、現代のキリストを主人公にした映画だから(異論は認めない)!
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なんとなく見返したくなったダーレン・アロノフスキー映画。
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寺山修司の同名小説の映画化。原作は未読。主演の一人は菅田将暉。
感想。期待していたよりも面白かったし、それぞれの人間模様がインパクトのある群像劇だった。「書を捨てよ、町へ出よう」「家出のすすめ」なんかは読んだけど、寺山修司の作品(世界観)を平成の世の中に映画化して面白いのだろうか・・・と思っていたけど、そこはちゃんと工夫されていて安心した。原作の時代設定を、3.11を経た2021年の近未来設定へと大胆に置き換えた上で、複数の主人公がそれぞれの過去と悩みを抱えながら生きていく群像モノとして成立させている。頻発する爆破テロとか奨学金を免除する国際貢献プログラム(という名の徴兵制)なんかの世界観も上手く構築していて面白い。
複数の主人公とは言っても、ストーリーは出所したばかりの新宿と吃音症のバリカンの2人の出会いと、ボクシングに2人が人生と目標(あるいは孤独や死)を見出していくのがメイン。バリカンの背景が異様にディティールと湿度があって、バリカン演じるヤン・イクチュンの演技も併せてとても印象的。バリカンに限らず、どの登場人物の人生にも過去と他者と共有できない孤独・コンプレックスがあって、それが直接語られずとも湿度として立ち上がってるのがとても良かった。ただこの空気が合わないと、地味で暗い意味不明な映画と化す感じも寺山修司的で、そういう意味では上手く映画化していると思う。
そんな新宿やバリカン達とは一切関係なく、別に並行して自殺研究会というサークルの話があるんですが、そこに出てくる自殺研究会会長が、寺山修司の観念を煮詰めたような存在で、本当にこの映画の特異点というか、他の人と一切話が噛み合ってなくて異常に際立っていてヤバかった(誉め言葉)。本当に一人だけ時空がおかしくて、一人だけ昭和の、寺山修司の概念(亡霊)なんですよ!(笑) 自殺機械(ドローン)を作ったので自殺志願者を探すという目的で動き、彼が主催する自殺防止フェスティバルで暗黒舞踏を始めたり、誰からも一切共感されない演説をしたりして、そして最後は・・・本当に訳が分からなくて最高だった。自殺研究会のエピソードがいるかどうかというのは、この映画の評価に結構影響するとは思うけど(たぶんこのエピソードのおかげで、映画全体のテンポが悪くなっているのは確か)、でもこのエピソードが入ってないと、この映画の異常な面白さは形成されずに、普通にイイ映画でしかならなかったと思うので、個人的には一番の見所だと思っている。
新・書を捨てよ,町へ出よう (河出文庫―寺山修司コレクション)