実家の犬が踊る

狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり

監督・脚本・配役の一体感。映画「カメラを止めるな!」を観た(ネタバレなし)。

。 公開前から絶賛している人がちらほらいて、公開直後からも言いたいけど言えない早く観てくれ! 系の感想が出始めたので、本格的なネタバレ喰らう前にダッシュで観に行ってきた。まあ、早く観に行っても感想書くのは遅いけれど(笑)

カメラを止めるな! 【B2変形サイズオリジナルポスター付】

 

 感想。映画館で観れて良かったタイプの映画だった。そして、これは確かにネタバレせずに黙って人に勧めたい映画だし、そうやって観た人に語りたいけど語れないという感情を生じさせているのもヒットの要因。普通に観ても面白いし、それに映画好き程、この映画の良さが噛み締められるというのも大きい。

 タイトルの「ONE CUT OF THE DEAD」通り、ワンカット撮影はこの映画の見所のひとつであり、それが前半と後半でワンカット撮影の持つ意味が全然違ってくるのは注目。ワンカット撮影がただの演出・技巧に留まらず、映画内でしっかりと意味を持たせた映画という意味では革新的だと思う。

 あらすじ自体が映画監督の主人公が映画撮影をする映画という多重メタ構造になっているので最初は戸惑うけど、そのまま戸惑ったまま楽しんでほしいし、戸惑っていれば戸惑っているほど、この映画の後半になっていくと面白さに転化していく構成が面白いし、そういう映画の演出的な面白さの他にも、主人公の、監督=父親としての再起のドラマでもあり、そこもとても良かった。

 全体的に見せ方が上手くて、親子関係や父母2人の娘であるということが分かる言動とか、全体から細かい所まで練りに練られて作られた映画だなあという印象。ワンカット撮影するのも綿密なリハーサルとカメラワークが必要だし、監督・脚本・演出を全て監督でやっていることの必然性も感じられて、今年を代表する邦画のひとつと言っても過言ではないレベルで良かったので、是非オススメ。

カメラを止めるな!

カメラを止めるな!

 

 

 

映画「レッド・スパロー」を観た。

 ジェニファー・ローレンス主演。この人の初見作が「マザー!」なので、そのインパクトが強くて、全然別人に見えてしまう。

レッド・スパロー (字幕版)

  女スパイもので、アクション系スパイというよりかは、ハニートラップや諜報系スパイ。話の都合上、女優のセクシーさを全面に出していく展開なのでとても良い。

 スパイはスパイでもロシアンスパイなので、ロシア帽や水着やドレス等を着た色々なファッションのジェニファー・ロレンスが観れるし、ロシアの諜報機関の訓練シーンとか殺し屋の拷問シーンとか細部のディティールは良いんだけど、全体的に話が散漫で、サスペンスとしてはイマイチ。訓練シーンも公衆の面前でのアレだけは意味が良く分からなかった。同じ女スパイもの系統だと「アトミックブロンド」とどうしても比べてしまって、難しい。方向性は全然違うし、この映画も悪くはないけど、うーん難しい。 

 

  似た系統の映画だとこちらも。個人的にはこっちの映画の方が好みだったかな。

ippaihaten.hatenablog.com

 

 

才能と後悔の物語。映画「gifted/ギフテッド」を観た。

 あの名作「(500日)のサマー」のマーク・ウェブ監督の映画なので、「(500日の)サマー」好きの人間としては観ないわけにはいかない。

gifted/ギフテッド (吹替版)

  ↑のパッケージの通り、主演は「キャプテンアメリカ」でお馴染みのクリス・エヴァンスと、女の子はマッケナ・グレイス。

 ギフテッド(神様からの贈り物)というタイトル通り、これは才能にまつわる映画で、持って生まれた才能や能力は何のために使うべきか、という話。自分はそういうテーマが好きすぎる。パッと頭に浮かんだのは漫画なら水上悟志の「サイコスタッフ」(下のリンクから無料で読める)とか、映画なら「セッション」「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」とか、そういう話。

www.mangaz.com

セッション(字幕版)
 

 

 自殺した姉(数学者)の娘メアリー(数学の天才児)と、その娘を預かることになった独身の弟フランクが主人公で話は進むんですが、そんな天才児に子供らしく普通に生活するんだというフランクと、才能を持って生まれた人間には才能を活かす責任があるとメアリーに英才教育させようとする母親との対立なんかも絡ませながら話は進んでいくんだけど、それぞれの思いと主張にはそれぞれに過去とエゴがあって、どちらの言い分もなんとなく分かるし反論も分かる、というバランス感覚が良い。どちらも、同じ人物に対する過去の後悔を子供メアリーでやり直そうとしている側面があって、その辺りの感情の機微の描き方が上手くて、そしてさらに終盤の展開でやられた! と思った。

 この映画のキモは天才と凡人の話だけでなく、姉(あるいは弟)と母親の親子の確執の話でもあって、終盤で主人公によって明かされた真相によって、話の角度がぐるりと変化して、自殺した姉の立ち位置が一変した瞬間が一番グッときた。その結果として、メアリー自身の話が少しぼやけてしまったのは残念だったけれど。そんな天才児役のマッケナ・グレイスが表情豊かで、「周りが子供に見えて退屈で仕方がない」って感じの大人びた子供の表情がとても良くて、フランク含めた大人とのやり取りが「(500日の)サマー」を思い出す軽妙さで面白かった。 

  

 

【同監督作品】

 

実写化の模範解答。映画「BLEACH」を観た

 漫画原作の実写化ってキャスト・アクション(演出)・脚本のどれか1つ勝てれば成功、2つ勝てれば大成功みたいなイメージがあったんですが、色々な実写化映画を観ていると、最近は原作イメージを書き換えて(上書きできて)いるか、というのも大事だなあと思うようになった。そういう意味ではこのブリーチはひとつの模範解答みたいな映画だった。ちなみに原作は完結していて既読。

BLEACH

 感想。思っていたよりもずっと良かった。激烈に良かったという部分はそれほどだったけど、確実にポイントを押さえた上で、BLEACHとしてしっかり成立させていたのは良かった。

 この映画は原作で言うと序盤の死神代行編の辺りがベースで、尸魂界(ソウルソサエティ)潜入編まではやらないんだけど、それでも初期のブリーチの世界観を捨てずに仕上げた手腕は素晴らしい。いや、この後くらいから卍解とか死神隊長勢揃いと、物語の第一次ブースト化(インフレ化)が始まるので、確かにその部分までも拾ったら絵面も派手になるし面白くなるんだろうけど、その反面駆け足になるし、細部が雑になりかねないというデメリットもあったと思う。そこをあえて拾わずに、初期のエピソードを独自のテーマ(母親と大虚周辺のエピソード)も掘り下げて膨らませて、原作以上に良いエピソードに丁寧に仕上げているので、そこは声を大にして評価したい。そこは声を大にして評価したい(大事なことなので2回言った)。

 主演の福士蒼汰(不意に鈴木伸之に見える)や杉咲花と全体的にキャストのアレンジが強くて、原作のイメージの書き換えに成功している。全体的にキャストが豪華で、作中での「大人」側のキャラを江口洋介長澤まさみ田辺誠一が演じているのはズルいと言いたくなるぐらい、大当たりレベルの良さがある。あと、本編のラスボスである白哉をMIYAVIが演じているんですが、雰囲気も白哉のイメージとMIYAVIのビジュアルイメージが高次元で融合していて、これが一番のハマり役かもしれない。アクションもキッチリ迫力のあるシーンになっているし、特に阿散井恋次戦での蛇尾丸は見所のひとつ。

 設定もできるだけシンプルにしていて、原作未読の人や初見の人であっても十二分に楽しめる映画だったと思う。何よりも、あくまで劇場版ブリーチ(読切版)として完結させていたのが良かった。終わらせ方も割と斬新に感じたのも好評価のひとつ。あそこで終わらせるとは完全に予想外で、逆にそのことがBLEACHという原作とファンに対する信頼感を感じる。続編があるかないかは分からないけど、あるなら、織姫・チャド辺りの話をオリジナル・スピンオフドラマとして設定を補完した上で、やるんだろうなという予言を一応しておこう。万が一でも予言が当たったらなんかください(笑)