実家の犬が踊る

狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり

言霊使いの罠! 映画「ミスターガラス」を観た(ネタバレありver)

 という訳で「ミスターガラス」のネタバレ感想記事です。

ポスター/スチール写真 A4 パターン3 ミスター・ガラス 光沢プリント

 

 ネタバレなしの感想はこちらからどうぞ。

ippaihaten.hatenablog.com

 

以下、ネタバレ記載。「ミスターガラス」「アンブレイカブル」「スプリット」「言霊使いの罠」に言及しています。

  • この映画の最大のポイントは、シャマラン映画という点に尽きる。本当に。
  • 自分にとってのシャマラン映画って「序盤から中盤で話に引き込んでおいて、終盤に向けて突然失速していって、ものすごいチープな現実に落とし込む」という作風なんですよ。全作観た訳じゃないけど、自分にとっての印象はそんな感じ。
  • アンブレイカブル」はその構造で観客の意表を突いていて、逆に功を奏した作品だと言える。
  • 「スプリット」も「アンブレイカブル」シリーズ作品という前提を外して単体作品として見ると、ちょっとその気配はあると思う。
  • だから「アンブレイカブル」「スプリット」で現実と思っていた”設定”が、中盤のステイプル女史によるカウンセリングによって、ただの妄想であると解体され始めた瞬間に「アッ、これはシャマラン特有のヤバいやつか・・・?」と内心でヒヤヒヤしていた。
  • 超常現象や不思議な出来事が、チープな現実に落とし込まれる展開はまさにシャマラン映画の王道パターンで、この映画を観ている人は少なからずそれを知っているじゃあないですか。
  • スパイダーマンやアイアンマンなんかのヒーローが作中で、実は何の特別な力もなくただの精神病患者の妄想ですと診断されたとしても「ふーん、この医者は勘違いしてんなー(鼻ホジ)」くらいにヒーロー側の実在を疑わないけど、「ミスターガラス」においてはヒーロー(超常)側の実在が、「えっ、マジで?」と観客レベルで揺らがせていて、それが成立しているのが凄い。凄くて面白い。
  • よくよく思い返すと、ちゃんとアンブレイカブルでもスプリットでも、ダンもケヴィンに対して、その特殊能力や多重人格(ビースト)が本当なの? というエクスキューズがちゃんと挟まれていて、それぞれの作品でその疑問を乗り越えて実在を獲得していたはずなんだけど、その前提をさらにひっくり返そうとする揺さぶり方が秀逸。
  • だからこそあの世界における狂人にして、唯一の正解者であったミスターガラスが、常識やチープな現実という幻想を打破していく姿が最高にカタルシスで激熱なんだなあ。ガラスがケヴィンやダンに発破をかけるシーンは本当に胸に来るものがある。
  • あと終盤付近での第三の勢力の登場は、その善も悪も活躍させないという立ち位置も含めて、これもまたシャマランっぽいし、最後のどんでん返しも面白い。
  • 普通の人々の記憶や世界から人知れず葬り去られようとしていたヒーローとヴィランの存在した証をガラスが公開して、彼らが生きた痕跡を残そうとするという展開も熱い。ガラスの本当の狙いが明かされて炸裂するシーンもカタルシス
  • 面白いんだけど、あれってただのビックリ人間映像の拡散でしかないし、現代だったらツイッターとかで少しバズって終わりくらいのレベルだよなあ。その辺りできっちりチープな現実感に落とし込まれるという、うん、やっぱり良い意味でシャマランだな!(笑)
  •  映画を観終わった後、なんか連想しそうになってモヤモヤしていたんだけど、しばらくして思い至った。ミスターガラスの展開は「言霊使いの罠」じゃん!
  • ということは、サラ女史による3人のカウンセリングも、憑き物落としだったんだよ!(なっ、なんだってー!?)
  • 何の話かと言うと、「言霊使いの罠」とはゲゲゲの鬼太郎(今の第6期ではなく第4期)屈指の名エピソード。京極夏彦が脚本と声優をやっている神回。詳しくはコチラ。

    第101話 言霊使いの罠!

    第101話 言霊使いの罠!

     

     

  • 京極堂ならぬ一刻堂という拝み屋が、ぬらりひょんに唆されて鬼太郎達を退治しようと追い詰めていくんだけど、その追い詰め方が独特で面白い。一刻堂は憑き物落としの言霊使いでもあるので、言葉を使って鬼太郎達を追い詰めていく。この台詞の語り口が良いんですよ。「いいかね、この世に不思議なものなどはない。だから君達のようなものは、いらない」 「そもそも君達は最初から存在しないのだよ。すべて、作りごとだ」「それじゃあ聞くが、君の名は何という?」
  • 名前=実存という妖怪のテーゼにも踏み込んだ話を、鬼太郎達にぶつけてくる一刻堂。不思議と名前が浮かんでこない鬼太郎達に「ほら、分からないんだ」「そうだ、君達は名前がない」「名前がないものは、存在しないに等しいのだ。だから君達は存在しない」
  • 自分の名前を言うことも、他の妖怪の名前を言えないまま、砂かけ婆は「つむじ風と砂山」に、一反木綿は「布切れ」、ぬりかべは「朽ちた壁」、子なき爺は「かぼちゃ」、猫娘は「ペットを連れたお嬢さん」へと一刻堂に呼ばれて、そのまま呼ばれた姿になってしまう。
  • 誰も知らないモノ、名前を呼ぶ者のないモノは存在しない、という妖怪のアイデンティティに踏み込んだ設定なんですが、まさに「アンブレイカブル」から「ミスターガラス」で描かれていたような、互いが欠けても存在できないヒーローとヴィランの存在意義の話であり、その存在によってかつて救われたダンの息子やケイシーのアイデンティティの話でもある。
  • ヒーローは自分自身のみでヒーローであることを証明(実存)できず、ヴィランもまた同じというジレンマ(弱点)を突かれるという構成。かつてヒーローに助けられた、ヴィランに救われた人々の声は届かず、ヒーロー(ダン)を救ったのはヴィラン(ミスターガラス)であり、ヴィラン(ケヴィン)を救ったのはヒーローorヴィラン(ミスターガラス)であったという点は面白い。
  • 結果として、敵役であるぬらりひょんがうっかり鬼太郎の名前を呼ぶことによって、名前を他者に呼ばれた鬼太郎が「そうだ、僕は鬼太郎だ」と自己を再定義して、アイデンティティを取り戻す話でもあり、完全にミスターガラスじゃんと思ったのだった。最高に面白かった。
アンブレイカブル(字幕版)

アンブレイカブル(字幕版)

 
スプリット (字幕版)

スプリット (字幕版)

 
第101話 言霊使いの罠!

第101話 言霊使いの罠!

  
ガラスを割れ! (Type-C)(DVD付)

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