実家の犬が踊る

狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり

バリカンの強烈なドラマ。映画「あゝ、荒野 後編」を観た。

 前編時点での終わり方でもある意味満足だったけど、後編も観た。

あゝ、荒野 後篇

 

前編の感想はコチラ。

ippaihaten.hatenablog.com

 

 感想。前編の散漫さが徐々に消えていって、中盤くらいからまた少し散漫になって、なんとなく勢いと力技で収束させた印象。まあ面白かったけど、前編と後編の位置付けがよく分からなくなった。一本の映画とした時に単純に分割したにしてはバランスが悪すぎるし、前編・後編とそれぞれ半ば独立した映画にしてはテーマが不明瞭な気がする。 

 前編に存在していた、寺山修司的概念はどうなるんだろうと気になっていたけど、自殺研究会の残党の人達が担っていた。でもまあ、うん・・・ぶっちゃけこの映画(後編)にもう不要な存在となっていたのは否めない。流産した女とバリカンの童貞、バリカンの父と「自衛隊へ行きます」の青年とか、完全にいらないとも言えないドラマとシーンなのが何とも。だったら、尺の都合はあるにせよもっとその部分もフォーカスしてほしかったかなあと思う。会長の彼女役の人は新人女優かなと思っていたら、今野杏南という元グラドルの人みたいで、映画内では雰囲気がガラリと変わっていて、話題性ゲストではなく一女優として作中の空気を作っていて良かった。

 後編では人と繋がる手段としての吃音者のバリカンの孤独と苦悩にスポットが当たっていたので実質、主人公だった。ならば、振り返ってみれば前編は新宿新次が主人公というイメージだったのだろうか。この二人が独自の道を歩み始めつつ、互いに微かな因縁を示唆しながら、ラストのボクシングシーンへと至っていく流れは、作中でバリカンと新宿の内圧がだんだんと高まっていく盛り上げ方でとても良かった。

 特にこの映画でフォーカスされていたバリカンの孤独と苦悩が、原作アレンジと上手く組み合わさった結果、強い感情の渦巻くドラマになっていて見応えがあった。「誰か」の死亡診断書の名前が書かれる下りとか、バリカンの演技とか色々と想像を喚起させるものがあって最高に良かった。

 全体的に主演から脇役まで、有名無名問わず役者の演技が良かったのは大きい。片目役のユースケ・サンタマリアとか社長の存在感も絶妙で、なんかいそうだなという地続きの臭いがある存在感。主演では特に仇を取った後の虚脱感に満ちた新宿(菅田将暉)の演技は良かった。色々あって介護ホームの仕事から一転してネットカフェの店員になるんだけど、この時の無の表情がとても印象的。

 終盤は主要な登場人物たちが同じリングを囲むことになるんだけど、母娘が再会することもなく今まで描いてきた因縁が結ばれるわけでもなく、ただ同じ場に居合わせたという形だけで終わらせているのは、それもまた群像というか、人生という意志のある割り切り方で嫌いじゃない。観終わった後、バリカンの父とは一体何だったんだと思わなくはなかったけれど。

 粗はあるけど、全体的に良い映画なので観て損はないと思う。前後編なので長いけど。原作設定を現代風に上手くアレンジしていることと、バリカンの設定を韓国出身にして、キャストに韓国人俳優を起用したのが見事にハマっている所は見所。原作小説もちょっと読んでみたくなってきた、そんな映画だった。

 

あゝ、荒野 後篇

あゝ、荒野 後篇

 
あゝ、荒野 前篇

あゝ、荒野 前篇

 
あゝ、荒野 (特装版) DVD-BOX

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あゝ、荒野 (角川文庫)

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等身大のサイコパス。映画「悪の教典」を観た。

 原作は貴志祐介の小説だけど、主演の伊藤英明によるアナザー「悪の教典」と化していて別種の楽しみがあって良かった。ちなみに原作・漫画版既読。

 

悪の教典

 

 感想。まず言っておきたいのは、「悪の教典」という作品とハスミンというサイコパス主人公を楽しみたければ、原作小説か漫画版を読めばいい。だけど、サイコパスを等身大で演じる伊藤英明を見たければ、この映画を観るしかない。

 何故か家では全裸がデフォルトの英語教師ハスミン(主人公)なんですが、それだけでなんとなく別種の人間と伝わる伊藤英明の演技と三池監督の演出がすごい。価値観の温度差というか、伊藤英明の狂気を端的に表現していて面白い。なんとなく「寄生獣」の裸ピアノを思い出した。

 

※裸ピアノについて(過去記事)

ippaihaten.hatenablog.com

 

  基本的には伊藤英明の一挙手一投足がヤバ面白くて、他のキャストも割と豪華なのに全員モブくらいの存在感になってしまっている。まさに伊藤英明=ハスミンの独壇場。そんな中で、全体的に謎のまま登場して、ドラム・刺又(さすまた)・パンツ嗅ぎの3点セットで死ぬ山田孝之も短時間で抜群の存在感を出していたのもgood。あと幻覚と回想で現れるシリアルキラーの外国人もインパクトあるし、おそらく作り手の趣味も入って好き勝手にやっていてexcellent!

 この映画が原作を忠実に再現しているかという観点で言えば、まあ及第点ギリギリなんだけど、原作を超えている部分が多数あって映画「悪の教典」としては成立しているので無問題だと思う。映画で興味持った人は原作(小説or漫画)を読んでほしいし、原作読んでいる人は純粋に伊藤英明のヤバさとハスミン・オルタを楽しんでもらいたい。

 この映画では、原作で描かれている「知性が高く、コミュニケーション能力に秀でている」という側面を持つサイコパス観とは別種のサイコパス表現に成功していると思うし、その表現が伊藤英明じゃないと成立しない迫力がある。英語の棒読み感とか、あからさまな脅迫とか、サイコパスというよりヤバい狂人感がビンビンに伝わってくるし最高。あと、三池監督が感動した伊藤英明どうぶつの森のエピソード(伊藤英明が「どうぶつの森」をゲーム機2台を用意してプレイしていて、一方では平和で健全な村を作り、もう一方では極限まで荒んだ村を作っていた話)とかも合わせると、作中の演技が、伊藤英明の演技なのか素なのか分からなくなってくるのでそれもまた面白い。

  長々と書いているけど、一言で言えば「自分のことをコミュニケーション能力が高く、知能も高いと思い込んでいる」サイコパスなんですよね、伊藤英明の演じているハスミンは。原作でも割と行き当たりばったりなんですが、この映画でも短絡的というレベルで行き当たりばったりなんだけど(笑)、作中のハスミンはそんな風には一切思っていなくて、最善手! くらいのドヤ顔で破綻したプランを淡々と進めていくんですよ。観ているこっちはオイオイオイ! みたいなハラハラ感しかない。そんな風に、伊藤英明(=ハスミン)本人の自己認識とこの映画を観ている観客との認識に大きな齟齬があるから、それが面白さの一番の理由な気がする。

 

悪の教典

悪の教典

 
悪の教典

悪の教典

 

 

【関連作品】 

 原作小説。文庫版は上下巻。新書版なら厚めの一冊

悪の教典(上) (文春文庫)

悪の教典(上) (文春文庫)

 

 

 こちらは漫画版。goodアフタヌーンで連載してて、全9巻で完結。

悪の教典(1) (アフタヌーンコミックス)

悪の教典(1) (アフタヌーンコミックス)

 

 

 

 

 

イーストウッドからのメッセージ。映画「15時17分パリ行き」を観た。

 イーストウッド監督作。実際の事件をもとにして、さらに事件の関係者3人をそのまま主人公たちとして起用するという斬新なスタイルは、公開時に話題になっていた記憶。 

15時17分、パリ行き(字幕版)

 

 感想。面白かったけど、イーストウッド監督の安定した完成度の高さなんだけど、やや小さくまとまりすぎた感じもして、バランスの悪さを感じた。実際に2015年に起こった事件を題材にして、実際の関係者をキャストとして起用することで、擬似ドキュメンタリーとしてもよくできていて面白いし、根底にある人間賛歌も感じられて自分好みであったけれど、この映画の根本はそこまで自分には刺さらなかったかなあ。

 主人公たち3人の環境・属性は母子家庭、キリスト教(信仰)、アフリカ系アメリカ人、従軍経験なんかで、おそらくイーストウッド監督が描く現在のアメリカなのだと思う。そんな風に、ひとつひとつはありふれた要素を回想シーンを挟んだ描写で積み重ねつつ、やがてその点と点が線になって意味を持つ、というような今のアメリカ人に向けたメッセージも含んでいると思うんだけど、その辺りは当事者でない自分にはあまりピンと来なかったという話。

 もちろん、それがこの映画自体の完成度や面白さを損ねるものではなくて、旅行中のホームビデオ風の撮り方とか、回想される各エピソードの内容を短い時間(約90分)の中で効果的に入れ込んでいて良い。気を張らずに観れる、クオリティ高い映画という意味でもオススメ。

 

 

BlackBerry

  回想シーンで主人公が学生時代に進路を心に決めて、仲間にメールした時はBlackBerry端末だけど、現在はiPhone使ってるっぽくて、そういう小道具のディティールで時代の流れを演出しているのかもしれない。

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 機種はBlackBerry Bold9780か9700だと思う。この両機種の違いもイマイチ分かっていないけれど。

BlackBerry Bold 9780 BlackBerry社 Black【並行輸入】

BlackBerry Bold 9780 BlackBerry社 Black【並行輸入】