実家の犬が踊る

狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり

静かな生活のインスピレーション。映画「パターソン」を観た。

 何気なく観てみたら、思いのほか面白かった映画。こういう映画は面白かった所を語るのが難しい・・・ということで、映画「パターソン」です。 

パターソン(字幕版)

 主人公のパターソンは、パターソン市営バスの運転手で、隙間時間に創作ノートに詩を綴る物静かな男性。そんなパターソン氏の日常を静かに描写しているのがこの映画の特徴。

 基本的にパターソンの日々のサイクルは決まっていて、朝の6時頃に起床して、職場でバス運転手の仕事をして、帰宅して妻との会話と夕食、夜に犬の散歩とバーで一杯、というサイクルを淡々と描いている。

 大きな事件はないが、昨日と今日が同じことはない日々。そんな中で、詩人でもあるパターソンの視点(感受性)が所々に感じられるのがとても良くって。たとえば、冒頭で奥さんとの会話の中で双子(Twins)ってフレーズが出てくるんだけど、その会話のシーン以降、パターソンの視界には双子やペアになっている存在がちょくちょく目に止まるようになっていく・・・というようなカメラ演出のさりげなさが絶妙に良い。

 他には、昼休みにたまたま出会った女の子の書いた「Water Falls」という詩を聞いた後、ふと自宅の壁に飾られた滝(Water Falls)の絵がやけに印象的にパターソンの目に映り、やけに啓示的に見えたりする、とか、パターソンの感受性というかインスピレーションという感覚を上手く表現してるのが凄い。職務を忠実にこなしながら、バスの乗客の会話に静かに耳を傾ける様子とか、ひとつひとつのシーンが、派手ではないけどスッと決まっていてとても好きなタイプの映画。

 本を読んだ後、ちょっと散歩しに外に出たら、自分の視界の中に色がひとつ増えた感覚というか、今まで気付かなかったものに気付く・発見したり、無関係だったものが不意に繋がる瞬間みたく、世界が広がったり解像度がひとつ上がったような感覚。小難しく言っているけど、子供の頃なり学生の頃なり大人の頃なり、みんなどこかのタイミングで何度も経験しているようなことではあるんだけど、それを改めて映画で追体験できたのは面白かった。

 パターソンの人生の中の僅かな期間とは言え、色々あった一週間。そして、色々あったのは、全ての出来事の主人公が必ずしも自分ではないから。人の数だけ人生と物語があって、それが交錯する瞬間にパターソンは立ち合っているだけ、というスタンスも全体的に感じ取れる映画だった。

 基本的には自由で静かな生活で、特に派手さはないけど、奥さんと犬とのやり取りも面白く、日常を丁寧に描いていてとても素敵な映画だった。終盤で永瀬正敏が出てきて驚いたけれど(笑)